FTSSIが提案する
「トレーサビリティ・システムの相互運用について」

1.トレーサビリティにおける共通の課題(2)

 次に、トレーサビリティを実施する上での品目等に共通した課題として先の3項目を整理すると、下記のように分類がなされると思われる。

表1.品目などに共通した課題と対応について
 
  共通課題
  対応
@
多くの企業が独自コードを利用しているため、複数企業に対してのエクスターナル・トレーサビリティの実現が難しい。自社・グループ間を越えた標準化されたコードの利用の徹底化と、さらにそれに紐づく情報の連携、標準化を図る必要がある。 コードと伝達情報(項目)の標準化
A
中小企業ではインターナル・トレーサビリティでさえも実現は難しい。一部の企業だけではなく、フードチェーンに関わる全ての企業がトレーサビリティを取り入れる必要がある。 中小企業でも導入可能な低価格システムの開発と運用費の軽減
B
企業のプライバシーに関連する情報の公開は難しい。そのため、プライバシー情報に関わらない情報の標準化を目指す必要がある。 伝達情報(項目)の妥当性とその標準化
※妥当性:誰もが納得する公開情報の定義

【補足説明】インターナル・トレーサビリティとエクスターナル・トレーサビリティ

「インターナル・トレーサビリティ(Internal traceability)」:事業者内における追跡・遡及管理。事業者自身が原材料を受け入れてから次の事業者に出荷するまでの間の対応関係を追跡・遡及できること。
「エクスターナル・トレーサビリティ(External traceability)」:事業者間に渡る追跡・遡及管理。受け入れた原材料等がロット単位でどこからきたのか識別でき、一段階前の事業者に遡及でき(one step back)、事業者が製品として出荷したものがどこに行ったか一段階後の事業者へと追跡できる(one step forward)こと。

 

 上記のAの課題としては、単純にトレーサビリティを構築するための費用対効果の問題である。これは、次項「2.トレーサビリティの普及のために」で詳細に記述するため、ここでは割愛するが、基本的には導入・ランニングコストの低減を実現することが、トレーサビリティの普及につながるものと思われる。

 また、Bについては、エクスターナル・トレーサビリティのために相互運用される情報を、プライバシー情報以外の項目に限定する必要がある。このように情報が限定できれば問題は解決される。
 ただし、企業としての公開可否情報の選定に関しては、業界内での調整が必要になると思われる。その場合にも、企業が現在有する優位性を損なう恐れのある情報提供を望むことは困難である。この点に関しては、互いの利害性を越えた枠組みの構築が必要である。これには、各企業の食の安心・安全に対する意識が、企業間の競争の原理を超えた公益性の確保という見地が必要である。
 しかし、この意識改革は一部の企業・団体だけでなく、そのマーケットに関連する全ての企業・団体を巻き込むだけの規模で行われることが必要であり、実現は難しい問題である。

 最後に最も困難であると思われる@について述べる。
 各企業が既に導入しているトレーサビリティの整合性、企業毎の情報に対する必要性の差異、独自事情等を考慮すると、生産から小売までのサプライチェーン全体で、標準化されたコードを利用することは極めて難しい問題といえる。
 製品あるいは製品群を識別するために最低限度必要な情報は、メーカー名、商品名、ロット番号・シリアル番号(またはタイムスタンプ)である。ロット番号を使用するかシリアル番号を使用するかは、遡及または追跡する単位に依存する。
 このうちロット番号・シリアル番号は、もっぱら個々の企業等で独自に体系付けされて運用されている場合がほとんどで、その標準化はメリットよりも現行の体系を変更することの弊害の方が大きいと考えられる。

図2. フードチェーンの各段階で使用されるコードとその目的

 標準化の検討が必要なものは、メーカー(事業者)コードおよび商品コードであり、これらには標準が複数存在する。トレーサビリティを実現するよう規定されたコード体系やその運用方法であれば、メーカー名や商品名に、独自のコード体系を使用するか、標準的なコード体系を使用するかは、トレーサビリティの実現の可否を左右するものではない。
 特に、限定的な利用(一企業内、固定的な取引関係者間等)では、独自のコード体系を採用する方が業務や商品特性等をより反映しやすく、運用が容易となる場合が多い。しかし、不特定多数と取り引きする場合や複雑な流通経路を経る場合には、標準的なコード体系を用いる方が有用な場合が多いと考えられる。「原材料入出荷・履歴情報遡及システムガイドライン(第2版)」にも同様に、特に、原材料に関してはその製品特性と同様に多種多様であり、商品コードだけではなく、メーカーのコード、原材料工場のコードの共通化が重要課題とされている。



食品トレーサビリティシステム標準化推進協議会

Copyright © 2003-2009 FTSSI All Rights Reserved.